ハーバード・ビジネス・スクールの教授で心理的安全性の提唱者である Amy C. Edmondsonによれば、心理的安全性とは「対人関係上のリスクに対する不安を感じることなく率直にものが言える状態」であり、集団に対して抱かれる心理状態のことを指します。
「対人関係上のリスク」とは、具体的には恥をかいたり拒絶されたり、或いは罰を受ける(損をする)かもしれないというリスクのことで、そういったリスクを避けようとして率直な意見交換が組織の中でなされなくなると、組織が成長し発展していくためのイノベーションなどが生じなくなり、生産性が低下したりミスが増えてしまうことが知られています。
心理的安全性とは、互いに率直に意見を言い合える「風通しの良い」会社風土と、それによって得られる情報を組織の生産性向上やイノベーション創出に活かすための仕組みづくりをセットで考える技術なのです。


日本の組織風土を考慮する
今や心理的安全性はビジネスだけでなく、教育や医療など人と人とがチームで活動する様々な場面で注目され、たくさんの書籍も出版されていますが、多くはリーダーがいかに変容することが大事かが強調されています。
確かに組織においてリーダーの影響力は大きく、研究からもリーダーの変容の効果が大きいことは示されていますが、組織の風土はリーダーだけの努力では変えられません。特に、日本特有のコミュニケーションスタイルや日本企業の組織文化を考慮すると、実は中間層や社員一人ひとりの認知の変容も同時に行うことが重要ではないかと考えられます。
例えば、あなたが自分の意見を声に出さないでいる時、それは必ずしも恥をかくことや罰を受けることに対する不安に起因するでしょうか?場合によっては「遠慮」や「相手の顔を立てる」など、相手を傷つけまいとする「思いやり」から口をつぐむこともあるのではないでしょうか?
心理的安全性が目指す成果は、情報交換を活発にしより生産的な組織体制を構築することです。その際には、日本の企業組織ならではの「対人関係上のリスク」に対する行動様式にあったアプローチが必要不可欠です。